国立感染症研究所

国立感染症研究所 感染症疫学センター
2021年10月20日現在
(掲載日:2021年11月26日)

侵襲性肺炎球菌感染症(Invasive pneumococcal disease, IPD)は、感染症法に基づく5類感染症全数把握対象であり、2013年4月から対象疾患となった1Streptococcus pneumoniae が髄液・血液等の無菌部位から検出されIPDと診断した場合に医師が届け出る2。2016年11月に検査材料(菌検出検体)の種類が変更され、髄液・血液に加え、その他の無菌部位が追加された。届出基準に含まれる検査方法として分離・同定による病原体の検出、PCR法による病原体遺伝子の検出、ラテックス法又はイムノクロマト法による病原体抗原の検出がある2

2014年第1週から2021年第35週に感染症発生動向調査に報告されたIPD症例を集計した(2021年10月20日時点)。人口情報は、各年の総務省統計局人口推計を使用した3。IPDの病型は髄膜炎、肺炎、菌血症、その他と分類し、届出票の症状欄に記載された内容を集計した。ただし、本まとめにおける「菌血症」は「明らかな感染巣を認めない菌血症」とし、症状欄に「菌血症」と記載されたもののうち、診断に用いた検体として血液・髄液以外の無菌部位(関節液、胸水等)が記載された症例は「その他」と分類した。

年間報告数は、2014年以降2018年まで経年的に増加し、2018年と2019年の人口10万人当たり年間報告数はともに2.65であった(表1)。2020年以降に報告数は減少し、2020年の人口10万人当たり報告数は1.32、2021年第1~35週までの同報告数は0.76(2019年第1~35週:1.83)であった。

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IPD報告数は1,4,5月に多く、7~9月に少ない季節性がみられる(図1)。各月の報告数は2014~2018年にかけて増加し、2020年以降に減少した(図1)。また2020年は4,5月の報告数増加がみられなかった(図1)。

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年齢別では、小児と高齢者において報告が多い(図2)。特に、1歳の人口10万人当たり報告数は147.6(2014年第1週~2021年第35週)と最も高い(図2)。小児においては、次いで0歳(62.8)、2歳(47.6)の順に高く、3歳以降は年齢が上がるにつれて低下する(図2)。高齢者において、90代までは高齢になるほど人口10万人当たり報告数が増加する(図2)。各病型の占める割合は年齢により異なり、小児では菌血症が多く高齢者では肺炎が多い(図2)。その他の病型として、中耳炎、副鼻腔炎、関節炎、脊椎炎、感染性心内膜炎、感染性大動脈瘤、胸膜炎、腹膜炎、縦隔炎、骨髄炎、蜂窩織炎、胆管炎、胆嚢炎等が報告された(図2)。

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0-4歳における人口10万人当たり年間報告数は、2014~2019年にかけて増加し、2020年は2019年の約半数に減少した(表1図3)。2021年も第35週までの同報告数は4.41であり、2019年の同期間における報告数(第1~35週:7.10)より少ない。重症病型である髄膜炎は244名が報告され(2014年第1週~2021年第35週)、全報告に占める割合は5.3%(2019年:28例/526例)~10.4%(2015年:41例/394例)であった。菌血症はいずれの報告年においても最も多く、全報告に占める割合は59.4%(2014年:214例/360例)~71.5%(2017年:331例/463例)であった。

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65歳以上における人口10万人当たり年間報告数は、2014~2019年にかけて増加し、2020年は2019年の約半数に減少した(表1図4)。2021年も第35週までの同報告数は1.47であり、2019年の同期間における報告数(第1~35週:3.94)より少ない。高齢者における主要病型である肺炎の占める割合は2014~2019年では50.9%(2016年:805例/1,582例)~54.4%(2018年:1,060例/1,948例)であったのに対して、2020年は46.9%(468例/997例)、2021年は45.2%(242例/535例、第1~35週)であった。

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検査法別では、分離・同定による病原体の検出が99.0%(19,236例/19,438例)を占めた。この分離・同定により診断されたもののうち、菌検出検体として血液18,540検体、髄液1,841検体、その他の無菌部位311検体が報告された(表2、複数検体から菌が検出された場合は、それぞれ集計)。その他の無菌部位としては関節液(142検体)、胸水(126検体)の報告が多く、その他の無菌部位のみから菌が検出されたのは0.4%(2016年:10例/2,740例)~1.8%(2021年:17例/958例)であった。

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2014~2019年はサーベイランス開始直後の期間であり、報告数が増加した主な要因として医師の届出率が上がったことが考えられる。2016年の届出基準変更により、髄液・血液以外の無菌部位から菌が検出された場合も届出対象となったが、これらの検体のみから診断された症例は少なく、報告数増加に対する影響は小さいと考えられる。

2020年以降に報告数は大きく減少し、これは小児・高齢者いずれの年齢群においても認められた。全報告に占める届出時死亡の割合は2014~2019年が6.1~6.7%、2020年が6.5%、2021年が4.4%であり、同髄膜炎の割合は2014~2019年が9.9~14.8%、2020年が10.5%、2021年が11.0%であった。2020年以降の新型コロナウイルス感染症流行が、患者の医療機関への受診行動や医療機関における診断に影響を及ぼし、IPD報告数が減少した可能性もある。重症例は、軽症例と比較してそのような影響はうけにくいと考えられるが、死亡例や重症病型である髄膜炎の割合が2020年以降に増加していないことから、そのようなサーベイランスバイアスを示唆する傾向は見られないと判断した。ただし、後述の肺炎球菌ワクチン接種によりIPDの原因血清型が変化しており4,5,6、重症な病型のIPD患者数が減少している可能性についても留意する必要がある。新型コロナウイルス感染症流行に対して、3つの密を避ける、人と人との距離の確保、マスクの着用、手洗いなどの手指衛生といった感染対策が広く行われるようになったことで、主として飛沫感染の感染経路をとるIPDの予防にもつながった可能性があると考えた。なお、感染経路が明らかに異なるつつが虫病や日本紅斑熱では、同期間に報告数が減少していない7

その他のIPD発症予防として、肺炎球菌ワクチン接種が行われている。2013年4月から小児を対象に結合型ワクチンが、2014年10月から高齢者を対象に莢膜多糖体ワクチンが定期接種化された。定期接種化とIPDサーベイランス開始は同時期であり、これらのワクチン接種導入によるIPD届出状況への影響を評価することは難しい。

IPDは致死的疾患であり、引き続き発生動向を注視する必要がある。特に、現在実施されているワクチン接種に関して、ワクチン種類や接種対象者の変更があった場合には、それに伴う届出状況の変化を評価することが重要である。

[参考資料]
  1. IASR 39: 107-108, 2018
  2. 厚生労働省.感染症法に基づく医師の届出のお願い(侵襲性肺炎球菌感染症)
    https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-09-02.html
  3. 総務省統計局.人口推計.
    https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html
  4. Nakano S et al., Vaccine 38(7): 1818-24, 2020
  5. Fukusumi M et al., BMC infectious diseases 17(1): 2, 2017
  6. Shimbashi R et al., Emerg Infect Dis 26(10): 2378-86, 2020
  7. 国立感染症研究所 感染症疫学センター.ダニ媒介感染症:つつが虫病・日本紅斑熱. IDWR 2021年第36号.
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/tsutsugamushi-m/tsutsugamushi-idwrc/10682-idwrc-2136t.html

 


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