国立感染症研究所

(2021年1月12日 改訂)

破傷風をひきおこす細菌について

破傷風(tetanus)は、Clostridium tetani(破傷風菌)が産生する神経毒素(tetanospasmin)による神経疾患である。Clostridium tetaniは、偏性嫌気性グラム陽性有芽胞桿菌であり、芽胞の状態で土壌などの環境に広く分布する。Clostridium tetaniは創傷から侵入し、嫌気状態の創傷部で発芽・増殖し、毒素を産生する。Clostridium tetaniの産生する神経毒素をコードする遺伝子は、細菌のプラスミド上にある。本毒素は、創部で産生された後、血行性およびリンパ行性に末梢神経終末に到達、末梢神経軸内を逆行性に移動して、シナプス前抑制神経終末で、抑制性神経伝達を減少させる。その結果、脱抑制された(disinhibited)、末梢運動神経、脳神経、交感神経が過活動(hyperactive)となり、破傷風の臨床症状を引き起こす。

【解説】

破傷風(はしょうふう)は、破傷風菌(はしょうふうきん)という細菌が作る毒素(どくそ)によって起こる感染症(病気)です。破傷風菌は、酸素があると増えることのできない「嫌気性菌(けんきせいきん)」の仲間ですが、芽胞(がほう)という固い殻に包まれた状態で、世界中の土などの環境に存在します。土などで汚れた傷(きず)から、破傷風菌芽胞が入り込み、傷のなかの酸素のないところ(嫌気状態)で菌が増え、毒素を出します。破傷風菌の作る毒素は、「神経のはたらきを抑制する神経」に作用して神経を「過活動の状態」にすることで、筋肉のけいれんや、こわばりの原因になります。

 
tetanis fig
Clostridium tetani (破傷風菌)のグラム染色所見
グラム陽性桿菌
円形の芽胞が菌体先端(terminal)に認められ、太鼓バチ状を呈す

破傷風に関する届出など

破傷風は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)に基づき、症状や所見から、破傷風患者と診断した場合には、7日以内に届出を行わなければならない第五類感染症全数把握疾患である。
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-12.html

【解説】

破傷風は、感染症法によって、届出が義務付けられている感染症です。

疫学とワクチン接種

  1. 1920年代にホルマリンで不活化した破傷風トキソイドが開発され、第二次世界大戦時に広く接種が開始された。
  2. 世界保健機関(WHO)は、1988年には約787,000例の新生児が新生児破傷風(neonatal tetanus)で死亡したと推定し、翌1989年の世界保健総会(World Health Assembly)において、新生児破傷風の撲滅を呼びかけた。1999年に、このイニシアチブは、産褥性破傷風および新生児破傷風撲滅(maternal and neonatal tetanus elimination, MNTE)と改名されて再スタートし、妊婦における破傷風トキソイドのルーチン接種の強化、ハイリスク地域の妊娠出産年齢の女性におけるワクチン追加接種、衛生的な分娩および適切な臍帯処置等が推し進められた。その結果、MNTが公衆衛生上問題となっている国は1999年の59か国から、2019年には12か国にまで減少した。
  3. 世界全体でのワクチン接種率は、近年数年ではほぼ変化なく、2019年には85%の小児において3回のワクチン接種がなされた。
  4. ワクチン接種率が高く、衛生的な分娩を行なっている国では、新生児破傷風の発生はほとんど認められなくなった。発症リスクが高いのは、ワクチン未接種者(特に高齢者)、糖尿病患者、静注麻薬使用者(米国等)である。
  5. 日本では、1948年に予防接種法が制定されたが、破傷風は対象疾病に含まれなかった。1952年から破傷風トキソイドが、1959年から沈降破傷風トキソイドが販売開始された。1964年に全菌体型百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(DPT)接種が導入され、1968年から定期接種が開始された。DPTワクチンは、1981年に沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(沈降DPT)に切り替わり、さらに、2012年から、沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン(沈降DPT-IPV)の接種が開始された。
  6. 日本での破傷風届出数は、1947年から1954年にかけては、毎年1,000例~2,000例(1949年には2,168例)であったが、1955年に960例と1,000未満となり、1972年には183例と200を割った(伝染病及び食中毒統計)。感染症発生動向調査によれば、最近は年間約100例の届出があり、2012年から2018年にかけての年毎の届出数は、118例、128例、126例、120例、129例、125例、134例であった。
  7. 人口動態統計による破傷風死亡数は、1954年には1000例以上であったが、漸次減少し、1967年には300例、1975年には100例以下となった。2012年から2018年にかけての年毎の死亡数は、8例、5例、9例、9例、8例、8例、5例であった。破傷風による死亡数のうち、1か月未満児死亡数のしめる割合は、1952年から1960年までは20-30%、1965年から1978年までは20%未満であり、1979年から1994年まで新生児破傷風による死亡の届出はなかった。1995年に1例の届出があり、この症例を最後に以後は新生児破傷風死亡の報告はない。

【解説】

破傷風は、ワクチンによる予防効果が大きい感染症です。日本では、1952年から破傷風トキソイドが導入されました。1968年から破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、百日せきワクチンが組み合わされた三種混合ワクチンが定期接種となり、現在では、その三種混合ワクチンに、不活化ポリオワクチンが組み合わされた四種混合ワクチン接種が行われています。

日本では、現在は年間約100人が破傷風を発病し、このうち5-9人は破傷風が原因で死亡しています。破傷風にかかる人は、1968年より前に生まれワクチン接種をしていない人に多く、この感染症の予防には、ワクチンの接種が重要であることがわかります。

世界では、清潔ではない場所でのお産や、不適切なヘソの緒の処置により、生まれた赤ちゃんが破傷風にかかって(新生児破傷風)死亡することが、1980年代にはまだ多く、大きな問題でした。妊婦へのワクチン接種や、清潔なお産を行うなどの対策に取り組んだ結果、2019年にはアフリカなどの12か国以外の国で、新生児破傷風(およびお産に伴う破傷風)の撲滅(ぼくめつ)がなされました。日本では、病院での清潔なお産が一般的になり、妊娠出産年齢の女性がワクチンの定期接種を受けているため、1995年届出の1例を最後に、新生児破傷風による死亡例の報告はありません。

感染経路と臨床症状

  1. 感染経路
    1. 1) ヒト-ヒト感染はない。
    2. 2) Clostridium tetaniの芽胞が創傷から侵入し、創傷部の嫌気環境下で芽胞が発芽し増殖する。産生された破傷風毒素が血行性リンパ行性に広がり、その結果、末梢運動神経、脳神経、交感神経が脱抑制され、破傷風の症状を呈する。
    3. 3) 新生児破傷風は、ワクチン接種を受けていない女性から出生した新生児において、非衛生的な臍帯処置が行われた場合に多く発症する。
  2. 潜伏期間
    1. 1) 潜伏期間は、3~21日であり、平均は10日である。
    2. 2) 新生児破傷風の場合は、生後4~14日(平均7日)で症状が認められることが多い。
    3. 3) 創傷部位が中枢神経系から近ければ、潜伏期間が短く、潜伏期間が短ければ、より重篤な症状、合併症、死亡の可能性が高くなる傾向がある。
  3. 臨床症状
    1. 1) 症状は、筋のけいれん(spasm)、硬直である。脳神経支配の筋においては、開口障害(trismus, lockjaw)、痙笑(risus sardonicus、顔面筋のけいれんにより笑っているようにみえる症状)、喉頭けいれん(laryngospasm)、嚥下困難等として認められ、開口障害は、初期症状として多い。四肢や体幹の筋においては、四肢、腹部、傍脊柱の筋群における硬直および疼痛を伴うけいれん、さらには、後弓反張(opisthotonos)として認められる。
    2. 2) 交感神経の過活動により自律神経が不安定になり、頻脈、徐脈、高血圧、低血圧、多汗などの症状が認められる。
    3. 3) 意識は保たれる。
    4. 4) 臨床的に3タイプに分けられる
      1. ① 全身性破傷風(generalized tetanus)
        80%以上が本タイプである。臨床経過は、免疫状態、毒素量、患者の年齢や全身状態によって多様である。致死率は10-20%である。
      2. ② 局所性破傷風(localized tetanus)
        創傷部に近い部位に限定して、けいれんが起きる。部分免疫のある患者に認められることが多く、症状は比較的軽症であるが、全身性破傷風に進行することもある。
      3. ③ 頭部破傷風(cephalic tetanus)
        頭部外傷後に、脳神経支配筋に症状が認められる、稀なタイプである。潜伏期間は短く、1~2日である。局所性破傷風と同様、全身性破傷風に進行することもある。
    5. 5) 合併症
      骨折、誤嚥性肺炎、肺塞栓、医療関連感染など

【解説】

破傷風では、人から人への感染はありません。破傷風菌の芽胞(がほう)が、土などとともに傷口(きずぐち)から入り、傷部分で破傷風菌が増え、増えた菌が毒素(どくそ)を作ります。その毒素が、血液にのって全身に回って神経に作用し、破傷風の症状をひきおこします。症状は、痛みを伴う筋肉のけいれんやこわばりで、最初に口が開きにくいという症状(開口障害)が認められることが多いです。顔の筋肉がけいれんすることにより笑っているような表情に見えたり、ものが飲み込みにくくなったり、頭部から背中まで弓なりにそり返る症状が認められたりします。意識は保たれます。

細菌学的検査

破傷風診断のための細菌学的検査はなく、破傷風は、臨床所見から診断する。破傷風患者の創部からのClostridium tetani培養検査は陰性であることが多い上に、破傷風ではない患者の創部からClostridium tetaniが分離されることもあるため、創部の培養検査は感度、特異度ともに低い。

【解説】

 破傷風は、臨床症状から診断されます。

治療

  1. 呼吸管理
    重症度にもよるが、喉頭けいれんや呼吸筋けいれんのため、通常、人工呼吸器による呼吸管理が必要となる。
  2. 毒素の中和
    すでに神経終末に結合している毒素には無効であるが、血中の毒素を中和する目的で、抗破傷風人免疫グロブリン(human tetanus immune globulin, TIG)が使用される。最適な使用量に関しては十分なデータがないが、米国のガイダンスでは500国際単位(IU)のTIG使用で、3000~6000 IU使用と同等の効果があるとされている。
  3. 筋けいれんの治療
    感覚刺激がけいれんを誘発するため、暗く、静かな病室で治療を受ける必要がある。ベンゾジアゼピン系薬、筋弛緩薬、マグネシウム薬などによる治療を行う。
  4. 創傷部の処置
    もし創傷部があれば、十分に洗浄消毒し、必要であればデブリドマンを行う。メトロニダゾールなどによる抗菌薬治療を行う。ペニシリンが使用されることもあるが、ペニシリンに理論的にGABAリセプターの競合的拮抗作用があるとされ、筋けいれんを悪化させるリスクからメトロニダゾールが使用されることが多い。
  5. 自律神経不安定症に対する治療
    自律神経不安定症に対して薬物治療を行う。
  6. (予防)ワクチン接種
    破傷風を発症しても、破傷風に対する免疫は獲得されないため、患者の状態が落ち着き次第、沈降破傷風トキソイドを含むワクチンの接種をすることが必要である。

【解説】

破傷風にかかると、多くの人では喉(のど)や呼吸をするための筋肉がけいれんするため、人工呼吸器による呼吸の補助が必要になります。血液中の破傷風毒素を中和するために、抗破傷風人免疫グロブリン(破傷風に免疫のあるヒトから採血した血液から作られた抗血清)を使用します。また、筋肉のけいれんを抑える薬物による治療を行います。もし、破傷風菌が入り込んだと思われる傷(きず)があれば、注意深く傷を洗い、深かったり組織(そしき)がいたんでいたりする傷では、いたんだ組織を切り取って、破傷風菌が増えないようにする処置がなされます。破傷風にかかっても、破傷風の免疫はつかないので、治った後に、破傷風トキソイドを含むワクチンの接種が必要です。

感染予防

  1. ワクチン接種
    現在、第1期の定期接種として用いることができるワクチンには、沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオ混合ワクチン(沈降DPT-IPV)、沈降精製百日せきジフテリア破傷風混合ワクチン(沈降DPT)、沈降ジフテリア破傷風混合トキソイド(沈降DT)の3種類がある。生後3~90か月に至るまでの間に4回接種する。標準的には生後3~12 か月に3回初回接種、初回接種後6か月以上あけて標準的には12~18か月後に1回追加接種する。なお、沈降DTを第1期に使用する場合は、生後3~12 か月に2回初回接種、初回接種後6か月以上あけて標準的には12~18か月後に1回追加接種する3回接種である。第2期(11~12歳に1回接種)としては、沈降DTのみが用いられている。日本小児科学会は、百日咳の予防を目的に、第2期の接種については、沈降DTの代わりに、任意接種として沈降DPTを接種してもよいとしている。
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/vaccine-j/2525-v-schedule.html
  2. 創傷処置(wound management)としての破傷風予防(フローチャート参照)
    1. 1) 創傷部の状態を確認する。土壌などに汚染された創部、壊死組織が認められる創部、凍傷、火傷、挫滅、剥離などによる創部では、破傷風発症のリスクが高い。
    2. 2) 創部を洗浄し、泥や異物等を取り除き、壊死組織のデブリドマンを行う。
    3. 3) 沈降破傷風トキソイドを含むワクチンの接種歴を調べ、沈降破傷風トキソイドの接種を行うかどうか判断する。ワクチン歴不明の場合は、未接種として扱う。
      1. ① 創傷部の状態から破傷風発症のリスクが低いと判断された場合
        1. 1. 沈降破傷風トキソイド(を含むワクチン)の第1期初回免疫3回接種が完了しており、最後の接種から10年経過していないのであれば、血中抗体価が感染防御レベル以上と考えられるため、今回の外傷のためにワクチン接種は必要とされていない。
        2. 2. 沈降破傷風トキソイド(を含むワクチン)の第1期初回免疫3回接種が完了していても、最後の接種から10年以上経過している場合は、1回の沈降破傷風トキソイドの接種が推奨される。
        3. 3. ワクチン未接種あるいは接種歴不明の場合は、積極的なワクチン接種が推奨される。
      2. ② 創傷部の状態から破傷風発症のリスクが高いと判断された場合
        1. 1. 沈降破傷風トキソイド(を含むワクチン)の第1期初回免疫3回接種が完了しており、最後の接種から、5年以上経過していないのであれば、今回の外傷のためにワクチン接種は必要とされていない。
        2. 2. 沈降破傷風トキソイド(を含むワクチン)の第1期初回免疫3回接種が完了していても、最後の接種から、5年以上経過していた場合は、沈降破傷風トキソイドの接種を1回行う。
        3. 3. 第1期初回免疫3回接種を完了していないか、ワクチン歴不明の場合は、沈降破傷風トキソイドを3~8週の間隔で2回接種し、本初回免疫終了後6~18か月後の間に1回の追加接種を行う。接種歴不明の場合、ワクチン接種を忘れている可能性があり、接種医が、接種の必要性および起こりうる副反応について十分に説明する必要がある。
          http://www.wakutin.or.jp/medical/
    4. 4) 抗破傷風人免疫グロブリン(TIG)
      1. ① 創傷部の状態から破傷風発症のリスクが高いと判断され、第1期初回免疫3回接種を完了していないか、ワクチン歴不明の場合は、抗破傷風人免疫グロブリン(TIG)を使用する。
      2. ② 創傷処置の際の破傷風予防には、250 IUのTIGが使用される。
      3. ③ 重篤な免疫不全者であれば、沈降破傷風トキソイド(を含むワクチン)接種歴とは関係なく、TIGを使用する。
    5. 5) 創傷部の観察を続け、感染兆候があれば治療が必要となるが、破傷風予防のために予防的抗菌薬使用は不要である。

【解説】

破傷風予防のためのワクチンには、破傷風毒素をホルマリンで無毒化した破傷風トキソイドを使用します。現在では、単独の破傷風トキソイドのほかに、百日せきワクチン、ジフテリアトキソイド、不活化ポリオワクチンと組み合わせた四種混合ワクチン接種、およびジフテリアトキソイドと組み合わせた二種混合ワクチンがあります。定期接種第1期では四種混合ワクチンで4回接種し、第2期では二種混合ワクチンで1回接種します。第2期の接種は、小学5年生~中学1年生(年齢は11~12歳)なので、忘れないよう注意しましょう。

ケガをしたとき、傷(きず)の状態とワクチン接種歴から判断して、破傷風の予防処置がなされます。汚れていない浅い傷で、破傷風トキソイドを含むワクチンの3回以上の接種歴があり、かつ、最後のワクチン接種から10年経っていなければ、この傷のためにワクチン接種をする必要はありません。もし、最後の破傷風トキソイド接種から10年以上経っていれば、このチャンスに、1回の破傷風トキソイド接種を受けるといいでしょう。破傷風トキソイド未接種の人は、積極的にワクチン接種をしておくことが勧められます。一方、土などで汚れた傷や、深い傷、組織(そしき)がいたんだり死滅したりした傷の場合は、破傷風トキソイドを含むワクチンを3回以上接種していても、最後の破傷風トキソイド接種から5年以上経っている場合では、破傷風トキソイドを1回接種しましょう。破傷風トキソイド未接種の人や接種歴不明の人は、3回の破傷風トキソイド接種とともに、抗破傷風人免疫グロブリン(破傷風に免疫のあるヒトから採血した血液から作られた抗血清)を注射する必要があります。

破傷風は、自然に免疫がつくことはありませんし、世界中の土や動物のフンなどに破傷風菌がいるので、誰でも破傷風にかかる可能性があります。定期接種を確実に受けることに加えて、定期接種が未接種あるいは接種歴が不明の場合は、積極的に、破傷風トキソイドを接種することを検討しましょう。また、自分自身や家族が、いつ何回破傷風トキソイド接種を受けたのか、記録しておくことも大切です。

 

(細菌第二部、感染症疫学センター)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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