国立感染症研究所

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E型肝炎 2014~2021年

(IASR Vol. 42 p271-272: 2021年12月号)

 

 E型肝炎は, ヘペウイルス科(Hepeviridae)のE型肝炎ウイルス(hepatitis E virus: HEV)の感染によって引き起こされる急性肝炎である。潜伏期間は15~60日と長い。発熱, 全身倦怠感, 悪心, 嘔吐, 食欲不振, 腹痛等の症状を伴い, 黄疸が認められるが, 不顕性感染も多い(本号3ページ)。従来は慢性化しないと考えられていたが, 臓器移植患者など免疫抑制状態にある患者のHEV感染が慢性感染を引き起こすことがある(本号9ページ)。感染経路は, いわゆる途上国や衛生状況の悪い難民キャンプ等では患者の糞便中に排泄されたウイルスによる経口感染が主で, 大規模な集団発生が報告されている(本号16ページ)。一方, 日本をはじめ世界各地で, E型肝炎は人獣共通感染症(本号10ページ)として注目されている。

 ヒトに感染するHEVは, ヘペウイルス科Orthohepevirus属の4つの種のうちOrthohepevirus Aに属する。Orthohepevirus Aはさらに8種の遺伝子型(G1-G8), 36種のサブタイプに分類されている(本号12ページ)。ヒトに感染するHEVは主にG1-G4の4つの遺伝子型で, 途上国で比較的大きな地域流行を起こすウイルスは主にG1である。先進国では主にG3によるE型肝炎が散発的に報告されている。G3およびG4は, ブタやイノシシに感染するため, 加熱不十分なこれらの動物の内臓肉等の喫食が, 国内の主な感染要因と考えられている(本号15ページ)。また近年, ブタやイノシシ以外の動物由来HEVのヒトへの感染例も報告されている(本号10ページ)。

 輸血によるHEV感染は毎年数件程度確認されているが, 北海道で先駆けて導入されていた輸血用血液のHEV核酸増幅検査法(NAT)が, 2020年8月より全国的に導入された。これにより今後は北海道以外の地域においても輸血による感染者数が減少することが期待される(本号6ページ)。

 E型肝炎は, 診断後直ちに届出が必要な4類感染症である(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-01.html)。またE型肝炎の流行状況を調査するため, 厚生労働省は「E型肝炎発生時の検体の確保等について」〔2016(平成28)年8月16日, 健感発0816第3号, 生食監発0816第2号〕を発出し, 各自治体に患者検体の確保, もしくはウイルス解析情報の提出を依頼している。

 感染症発生動向調査(NESID):2014年1月~2021年9月までにE型肝炎と届出された患者は2,770例であった(表1)。2005~2011年までは年間100例以下の報告であったが(IASR 35:1-2, 2014), 2015年以降は年間200例を超え, 2018年以降は400例を超えている(図1)。

 1)届出に記載された推定感染地域国内で感染したと推定された患者(国内例)が大勢を占め(88%), 国外での感染が推定された件数は113例(4.1%)であった(図1, 表2)。2,770例の都道府県別届出状況を図2に示す。北海道(本号15ページ)および関東甲信越地方からの届出が多く, 四国地方からの届出は少ない。国外113例の主な推定感染地はアジアで, 中国が最も多く(20%), インド(15%), 台湾(7.1%), タイ(7.1%)と続く(表2)。

 2)性別年齢分布男性2,134例(推定感染地:国内1,865例, 国外90例, 不明179例), 女性636例(国内567例, 国外23例, 不明46例)で, 国内例は40~70代の男性が報告数全体の57%を占める(図3)。国外例は男性が4.2%, 女性が3.6%と大きな違いは認められず, またいずれも幅広い年齢から報告されている。

 3)検査診断法確定診断に使用された検査法は, かつてはRT-PCRによる遺伝子検出, およびELISAによるIgM抗体検出が主流であったが(IASR 35:1-2, 2014), 2011年10月にE型肝炎のIgA抗体検出キットが保険適用となり, それ以降はIgA抗体の検出による診断が主流となっている(表1)(本号5ページ)。2013年にはNESIDの届出基準の検査方法にもIgA抗体の検出が追加された。

 4)届出に記載された推定感染経路届出された2,770例のうち, 推定感染経路の記載があった国内1,035例で, その内訳はブタ(肉やレバーを含む)の喫食が428例(41%)と大部分を占めていた。その他にはイノシシ99例(10%), シカ88例(9%)などで, 動物種不明の肉(生肉, 焼肉など)あるいはレバーがそれぞれ218例(21%), 79例(8%)であった(重複を含む)。国外113例中では, 水5例(4%), ブタあるいは動物種不明の肉の喫食が30例(27%)記載されていた。記載された感染経路は推定であり, 必ずしも正しい感染源でない可能性もあり, 感染源が特定されるケースは少ない。

 動物のHEV感染状況ブタのHEV感染が世界各地で確認されており, 日本国内の調査でも2~3カ月齢のブタの糞便からHEV遺伝子が高率に検出され, また出荷時のブタ(6カ月齢)においては, 感染歴を示す抗体保有率が90%以上であると報告されている。一方で, 出荷時のブタの血清や流通している豚レバーからはHEV遺伝子が検出されるものの, その頻度は低いとされている。また, 国内の野生イノシシの抗体保有率(34%)はブタより低いが, HEVが広く侵淫していることも明らかにされている。また最近はラット, ウサギ, ラクダ由来のHEVのヒトへの感染が報告されている(本号10ページ)。

 HEV感染予防厚生労働省は, 2004(平成16)年にHEV感染に関する通知を発出し, ブタならびに野生動物の肝臓・生肉喫食を避け, 十分加熱調理して喫食することの必要性を狩猟者, 食肉関係者および消費者向けに注意喚起している〔2004(平成16)年11月29日, 食安監発第1129001号, 医薬食品局食品安全部監視安全課長通知:http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/kanshi/041129-1.html〕。近年のE型肝炎の届出数は増加傾向にあり, またその多くが国内での感染によるものと考えられることから, 国民全体に対して感染リスクについてのより一層の周知徹底が重要であると思われる。また流行地へ渡航する際にも, 飲み水に注意し, 加熱不十分な食品の喫食を避けることが必要である。なお, E型肝炎ワクチンは中国で承認されている組換えワクチンがあるものの, それ以外に人への使用が認められているワクチンはない。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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